紀宝町鵜殿の醫王山(いおうざん)東正寺(とうしょうじ)が発行する寺報「醫王」が、2月で500号を迎えた。寺と檀家(だんか)、地域とのつながりになればと片野晴友住職(69)が42年前に始めた取り組みで、編集印刷を一人で担いながら毎月欠かさず作り続けてきた。
B4判を二つ折りにした両面モノクロ印刷で、毎月1日発行。僧侶仲間のエッセーや、「せいゆうのひとりごと」と題したコラム、前の月の行事報告、寄付金の状況などを載せ、今は860部を檀家や縁のある人に届けている。
始まりは大本山永平寺(福井県)での修行から戻った27歳の頃。「お葬式や法事以外、どんなことをしているか知られていない」と感じ、寺と檀家をつなぐものとして寺報を当時の眞道住職に提案した。
創刊号は1981年に発行。鉄筆で手書きし、いわゆるガリ版印刷(謄写版印刷)で仕上げた。表紙となる1面には今すぐに取り組もうという意味の道歌をつづり、イラストも描き入れた。「当時は笑われることもあった」が、先代の住職は何も言わず温かく見守ってくれた。
創刊した年は計4回発行し、翌年からは毎月発行へ。83年からは文字をワープロ書きに変え、読みやすくした。「文才がないので、1面だけは何とかしたいと思って」。元々交流のあった北海道の僧侶仲間に依頼し、エッセーを執筆してもらうなど試行錯誤してきた。
これまで最も多い時で1350部発行し、3日間をかけて熊野市から那智勝浦町まで原付バイクで配っていたが、2年前に膝を痛めてからは多くを郵送に託すことにした。今はパソコンで編集し、業務用プリンターで印刷。「元気だよと、分かってもらえたらという気持ちで続けている」という。
晴友住職のそばでは日々、長男で副住職の智博さん(37)、次男で徒弟の道雄さん(32)が励んでおり、21年からは智博さんがインスタグラムでの発信を始めた。先代の住職が背中を押してくれたように、信頼して任せている。
晴友住職は「500号だからという意識はしていない。毎月出すという最初の気持ちをずっと持っている。続けられる間は続けていきたい」と目を細めていた。
(2023年2月8日付紙面より)
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