形見の愛車、修理進む (紀伊半島大水害から9年 )
三菱ギャランGTO―。1973(昭和48)年製の往年の名車の持ち主は中平幸喜さん(享年45)。幸喜さんは9年前の2011(平成23)年、紀伊半島大水害により帰らぬ人となった。主人(あるじ)を亡くした車も同水害により水没。9年近く泥にまみれた状態のまま保管されていたという。しかしこのほど、動かなくなった車をよみがえらせようと立ち上がった有志たちにより、現在車の修復作業が進められている。
紀伊半島大水害の被害が大きかった那智勝浦町市野々地区。中平家では幸喜さんをはじめ妻の澄子さん、長女の彩音さん、次女の百音さん、次男の景都君が土石流に流された。当時、東京で就職していた長男の史都さんは家族5人を失った。
幸喜さんは新宮市熊野川町で中古車販売店を経営。同町においても甚大な被害をもたらした水害は、看板代わりに置いていた幸喜さんの愛車「ギャランGTO」を店舗もろとも水没させた。形見の車の修復は遺族らの念願だったが、年式の古さや水没したことなどを理由に修理は断られ続けた。そして未曽有の大水害から8年以上の月日が経過した。
「どうにもならん、と言うから、どうにかなるやろ、と思った」。幸喜さんの兄・敦さんと親交のある中村進太郎さんは車を修理するに至った経緯を語る。幸喜さんと面識はないものの、中村さんは敦さんに対する日頃の恩を返そうと一念発起。車を紀宝町の中古車販売店「car shop CREW」に持ち込んだ。
同業によるつながりもあり、生前幸喜さんにお世話になったという同店の今井寛己代表は修理の依頼を快諾。修理には1年~1年半ほどかかるとしながらも「使える部品はそのまま使いたい。公道を走れる状態に持っていくのは最低目標」と熱を込める。
「幸喜さんは明るくて気さくな人だった。厳しいところもあるが、困っていたら助けてくれる人だった」と今井さん。「敦さんの熱、中村さんの熱。みんなの『誰かのために』という熱意を感じている。そんな思いに応えたいと思った。幸喜さんの車が持ち込まれたのも縁だと感じている」。
「泥も落とされ見違えるくらいにきれいになった。先が見えてきたように思う」。修理の進捗(しんちょく)状況を見に訪れた中村さんだ。車を前に、今井さんと先の大水害に対して思いを巡らせ、「慰めにしかならないかもしれない。でも、(敦さんに)直った車を弟と思って大事にしてもらえたらうれしい」と語った。
水害以前の姿によみがえった父の形見である「ギャランGTO」が、史都さんの元に届く日もそう遠くはないだろう。
(2020年8月27日付紙面より)
屋外のウミガメパークで (串本海中公園 )
串本町有田にある串本海中公園センター水族館で今年も、館内飼育するウミガメ類の卵のふ化シーズンが始まった。
串本の海の生き物を展示する同館。その象徴となっているのがウミガメ類で、屋外にあるウミガメパークでアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイ30匹を飼育展示しデッキ上からの観察や餌やり体験によるコミュニケーションで来館者に親しまれている。
同パークには砂地の産卵場も備わっていて、飼育個体が年々の繁殖に利用。今年は6月15日分を初として今月24日までに14回の産卵を確認していて、その場所に旗を立てて来館者に伝えている。産卵回数は例年よりやや多め。うち6月21日分が8月20日に今年初となるふ化を迎え、稚ガメ25匹を水槽で保護している。
ウミガメ類に詳しい吉田徹副館長によると、アカウミガメは産卵から60日ほどでふ化するそう。館内トピックス水槽で一部を展示している8月4日分が今年最終の産卵で、ここから推してふ化シーズンは9月いっぱいまで続くという。
この展示は、自然界では砂に埋まっていて観察できない卵を間近に観察してもらうため実施。ふ化後の稚ガメは夜間の時間帯を感じて砂から出てくるがふ化自体は時間帯によらないので、居合わせた来館者にその瞬間を見届けてもらえればと期待しながら続けている。
産卵場は自然条件でのふ化率を調べる環境になっていて、例年は300匹前後の稚ガメがふ化するという。うち数十匹を研究用や展示用に飼育し、残りは極力飼育環境に慣れないうちに海へ送り出している。稚ガメの大きさは甲長4・5㌢前後、体重20㌘前後。現在子ガメのタッチングを中止しているが、9月初旬から今年生まれた稚ガメの館内展示を始める方向で段取りを進めるという。
(2020年8月27日付紙面より)
観光機構が町民に説明 (那智勝浦町 )
那智勝浦観光機構(NACKT)は25日、那智勝浦町体育文化会館で町民説明会を開催した。同日午前の説明会では観光機構の取り組みや観光地域づくり法人(DMO)についての講演などが行われた。
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大阪観光大学観光学部教授の小野田金司さんが「日本の観光政策の方向性とDMOについて」をテーマに講演。成功している日本版DMOに田辺市熊野ツーリズムビューローを挙げ、一市町村で年間5億円の売上を突破していることは稀と話した。
日本と世界の旅行消費額(2019年調査)を比較し、国内旅行では1人当たり3万7355円だが、訪日外国人は15万8531円で4・2人分になるとし、インバウンドの経済効果の高さを示した。
政府が30年に定める旅行消費の目標額が37兆円であるとし、自動車の輸出額を上回ることになると説明。「観光は外からのお金を獲得することが目的。地方にとっても外貨を獲得することが重要」と締めくくった。
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同機構の堀千寿子さんは旅行は時代の変化に伴い、物見遊山スタイルからモノ消費となり、コト消費、ヒト消費に変化してきたと説明。現在はそれぞれのカテゴリーにアプローチを検討・実行する観光マーケティング戦略が必要になったと話した。
教育旅行向けコンテンツを作成する西村和薫さんは「昨年度と比較し、本年度は10倍近い学校が町に来る。再び町に訪れていただけるような魅力的なツアーを作っていきたい」と述べた。
同機構は商品開発のための基礎調査として、「町観光資源体系的な洗い出し調査」「世界遺産・熊野古道『大辺路』を核にした魅力アップ調査」「駅周辺観光資源活用化調査」など、磨き上げの取り組みを挙げた。
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村井弘和事務局長は、現在補助金申請中の事業を説明。同町の生マグロと関西ミュージシャンを融合させた地元密着型音楽フェス「まぐロック」の開催を今年12月に予定していると話した。
関西都市圏在住の音楽好きの30代社会人をターゲットに1日700人の集客を想定。7日間開催し、日付ごとにコンセプトや出演者を変更する。3密回避のためブルービーチ那智を会場とし、GoToトラベルキャンペーンとの連携、生マグロの解体ショーなど観光資源を活用した演出を行うという。
また、ブルービーチ那智の有効活用として、宿泊施設としてテント5棟や、子どもが遊べる遊具、カフェを併設する。ビーチをこれまでにない憩いと集いの場にする「BLUE BEACH NACHIプロジェクト」を挙げた。
同ビーチは吉野熊野国立公園内であるため、和歌山県や環境省と話し合い、許認可を得ながら進めていると説明した。
なお、9月3日(木)にオープニングセレモニーを開くという。
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説明会に参加した男性は「地域や人にもスポットを当てるなど、観光協会とは違った視点で観光に取り組み、課題の解決をしてくれることを期待している」。
女性は「町に昔からある貴重な資源財産を知って、PRすることも大切では」と話していた。
(2020年8月27日付紙面より)
MYNSが稲刈り作業 (新宮市熊野川町 )
新宮市熊野川町で農業活動に取り組む「MYNS(マインズ)」は稲刈りを実施した。メンバーたちはしっかりと育った稲穂を刈り取り、収穫に汗を流した。
MYNSは2011(平成23)年9月に発生した紀伊半島大水害の救済措置として国からの災害復興支援を受けて始動。南本安信さん、山口一男さん(故人)、西道弘さん、下阪殖保さんの頭文字を取って名付けられ活動している。田植えは4月末に実施。今年は今月16日から作業を開始し、同町能城(のき)地区にある7区画の田んぼ合計約120㌃の稲刈りに取り組んでいる。
21日には地元農家や地域住民も応援に訪れた。メンバーらは成長した「こしひかり」の稲をコンバインで刈っていき、協力しながら脱穀作業に励んだ。
下阪さんは「例年に比べて収穫量は少ないが、品質は良い。メンバー間だけでなく、手伝っていただいた方々に感謝しています。みんなで力を合わせてコロナに負けず、熱中症に気を付けながら仲間である山口さんの分まで猛暑を乗り切って頑張っていきたい」と話していた。
(2020年8月27日付紙面より)