2019年11月23日
クジラの水銀は影響なし
健康影響の調査は終了
太地町
国立水俣病総合研究センターの中村政明臨床部長(左)と坂本峰至所長特任補佐が報告した=21日、太地町公民館

 太地町は21日、同町公民館で「太地町における水銀と住民の健康影響に関する調査報告会」を開催した。同町から依頼を受けた国立水俣病総合研究センターの坂本峰至・所長特任補佐と中村政明・臨床部長が研究結果を説明。子どもの発達や鯨食を継続した場合も人体には影響はないと報告した。

 報告会には水産庁や日本鯨類研究所、和歌山県、同町などが出席。坂本所長特任補佐は食物連鎖の頂点に位置する歯クジラは、メチル水銀や無機水銀などの高い濃度の総水銀を蓄積しているとし、中でもメチル水銀は人間の脳や胎児に毒性を示すと述べた。

 魚類に多く含まれ、水銀の毒性を抑える働きがある「セレン」は、歯クジラには濃い濃度で含まれていると説明。メチル水銀とセレンが結合し「セレン化水銀」となることで、水銀は不活性な無毒化された状態になり、クジラ自体にも影響を及ぼさず、人体の健康にも影響がないと話した。

 胎児はメチル水銀への感受性が高いため、妊娠期には注意が必要と話し、厚生労働省のホームページ「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」を勧めた。

 中村臨床部長は「和歌山県紀南地区におけるメチル水銀の小児発達への影響調査」について、同町、那智勝浦町、串本町の小学1年生を対象に2012年から17年までの間、計133人に小児検診を実施した結果を報告。

 胎児期のメチル水銀曝露(ばくろ)はへその緒(臍帯=さいたい)を用い、小児期のメチル水銀曝露は毛髪水銀濃度で評価した。秋田県などや全国の調査結果と比較。同地区はどちらも比較的高いメチル水銀に曝露していると話した。

 統計学的手法(重回帰モデル)を用いて、胎児期・小児期曝露と小児発達の関連性では「WISC―Ⅲ知能検査」「ボストンネーミング検査」「読字検査」などの、六つの神経生理検査を実施。その結果、胎児期及び小児期のメチル水銀濃度との関連性はないとし、男児でメチル水銀の曝露により聴覚伝導、視覚伝導に軽度の遅延が見られたが、言語性IQや動作性IQにも問題はなく、小児発達に大きな影響はないと話した。

 胎児期のメチル水銀濃度曝露の影響を除外した場合は、男児に見られた小児期曝露による聴覚伝導の軽度遅延が認められなくなったと主張。クジラや魚介類に含まれるメチル水銀の影響は胎児期に、DHAの影響は小児期に受けやすいとした。

 中村臨床部長は成人に実施した調査でメチル水銀による明らかな健康影響が認められなかったことから「小児期・成人期はメチル水銀を含む魚介類の摂取制限の必要はないが、妊娠中の摂取量には注意してほしい」と呼び掛けた。

 また、今回の調査ではDHAを測定するための血液採取に関する同意が得られなかったため統計解析ができなかった問題点は残ると解説した。

 三軒一高町長は「世界的に通用するデータが必要だった。約10年の調査は今回をもって終了。水銀の影響がないことが分かりうれしい」と語った。なお、午前中は住民対象に報告会が行われ、約100人が集まった。

(2019年11月23日付紙面より)

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国立水俣病総合研究センターの中村政明臨床部長(左)と坂本峰至所長特任補佐が報告した=21日、太地町公民館