2018年10月05日
「誠之助の魅力感じて」 佐藤春夫記念館で企画展 新宮市
資料やパネルで大石誠之助の人柄に触れることができる。写真は「許されざる者」関連資料

 新宮市立佐藤春夫記念館(辻本雄一館長)で、企画展「新宮市名誉市民記念 大石誠之助とはどんな人?」が開催されている。誠之助をモデルに書いた辻原登さんの長編小説『許されざる者』の執筆資料や、大逆事件関連資料、写真などを一挙に展示している。来年2月24日(日)まで。

 辻本館長が「誠之助が新宮市の名誉市民となった、一つのきっかけであることは間違いない」と話す『許されざる者』では、日露戦争を背景に、架空の町・森宮(新宮)で誠之助や西村伊作らをモデルとした人物が活躍する。誠之助がモデルの槇隆光(まき・たかみつ)が森鷗外と脚気(かっけ)病について論争を交わす場面などがある。

 「フィクションではあるが、脚気の研究をしていたのは事実であり、それをヒントとしている。そういった場面を絡ませながら、誠之助の人物像を魅力的に、小説の世界で表現している」と辻本館長が評する同小説からは、第1回目と最終回の原稿や校正原稿、宇野亜喜良さんの挿絵原画、小説プロットなどを展示している。

 誠之助は情歌(都々逸)や料理など幅広い趣味を持っていた。情歌の宗匠として認められた際に出版された『紀伊升連並禄亭永升立机披露 情歌集』や、誠之助が開業したレストラン「太平洋食堂」の資料なども解説パネルと共に並ぶ。

 新宮という小さな町の開業医でありながら、幸徳秋水や堺利彦など東京で活躍する人からも一目置かれる存在であった。「堺利彦は自分が死ぬ時は誠之助に診てもらえたら本望だ、と言っていたことから、医者としても信用していたのでは。好奇心や向上心が豊かだった誠之助の人物像にも触れていただけると思います」。

 辻本館長は誠之助の人物像について「一言で言えば『赤ひげ先生』(山本周五郎の時代小説『赤ひげ診療譚』に出てくる医者。理想の医者の代名詞として使われる)」と語る。「誠之助はすでに名誉市民である佐藤春夫、西村伊作、中上健次らの先覚者であった。誠之助を語る上で、大逆事件は避けては通れないが、ガチガチのイデオロギーを持った社会主義者ではなく、社会保障や社会福祉などに目を向けていた初期社会主義の人。その中で誠之助は、貧者と青年に見放されたら自分は生きていく価値がないと随所で言っていた。そんな人間的な魅力を展示物から感じてもらえたら」と来館を呼び掛けている。

 11月10日(土)には、辻本館長によるギャラリートークも予定している。午前10時30分~と午後2時30分~の2回開催。事前の申し込みが必要。問い合わせは同記念館(電話0735・21・1755)まで。

(2018年10月5日付紙面より)

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資料やパネルで大石誠之助の人柄に触れることができる。写真は「許されざる者」関連資料