2017年12月12日
中世の思想表す名画
「那智瀧図」読み解く講演会
那智勝浦町
熊野那智大社創建1700年・那智山青岸渡寺西国三十三所草創1300年を記念して開かれた講演会に詰め掛けた聴衆=9日、那智勝浦町体育文化会館

 熊野那智大社創建1700年・那智山青岸渡寺西国三十三所草創1300年を記念し熊野三山協議会は9日、那智勝浦町体育文化会館で歴史講座を開いた。奈良国立博物館学芸部工芸考古室長の清水健さんが国宝「那智瀧図」=東京都・根津美術館所蔵=に隠された宗教的な意味を解き明かした。

 講演会は協議会理事で熊野那智大社の男成洋三宮司、那智山青岸渡寺の高木亮英副住職らも聴講。男成宮司は「記念の年の最後の行事となる。興味深い講演の開催がありがたい」とあいさつした。

 「那智瀧図」は鎌倉時代(13世紀)の作で縦160・7㌢、横58・8㌢。滝をクローズアップし、写実的に一見、風景画のように那智の滝が描かれている。世界にも類がない、神秘性を感じさせる名画でフランスの作家で政治家のアンドレ・マルローが魅了されたというエピソードが知られている。熊野御幸をした亀山院(1249~1305年)が発願者となり、僧侶で仏教画を描いた絵仏師と呼ばれる画家、快智(かいち)の作とされている。

 清水さんは図の細部をスクリーンで拡大しながら、そこに込められた意味を解き明かしていった。滝の上部に実際にはこの位置には見られない太陽か月の天体が描かれており、岩場には修験者が修行の際に残す札「碑伝(ひで)」があり、滝の岩肌には金色が使われている。天体は宗教的な意味があり、中世では聖なる空間を描く時は金色を使う。技法も特殊で、伝統的な大和絵の技法と中国から入った当時は最新の水墨画の技法も使われている。

 清水さんは「この絵は、風景と信仰、神と仏、和と漢の世界で揺れ動く存在といえる」と語り、「平安京の人からは、熊野はかなたにある浄土で信仰心をくすぐられる場所だった。那智の滝に千手観音が現れると認識されていた。神仏習合の信仰と相まって滝のかなたに観音浄土が見えてくる」と解説。「風景を描いたように見えるが、ご神体を描いた一種の宮曼荼羅(まんだら)なのではないだろうか。中世日本の思想を端的に表す、シンプルだが多層的な絵である」と述べた。

(2017年12月12日付紙面より)

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熊野那智大社創建1700年・那智山青岸渡寺西国三十三所草創1300年を記念して開かれた講演会に詰め掛けた聴衆=9日、那智勝浦町体育文化会館
スクリーンに映し出された「那智瀧図」(左)と実際の那智の滝の写真
清水健室長