那智勝浦町は22日、那智山青岸渡寺信徒会館で世界遺産登録20周年記念シンポジウム「那智大滝と地域の未来」を開催した。会場・オンラインで計330人が参加。著名な建築家・隈研吾さんらを迎え、那智山の信仰、歴史文化、自然の根幹である那智大滝や流域の原生林保全、未来への継承について考えた。
「瀧の力、森の力」と題した隈さんの記念講演では、冒頭「那智の滝は人々が立ち返るべき自然の象徴」と言及。「自然から遠ざかり、人工的な超高層建築を打ち立てるという時代は限界を迎えつつある。そのことに世界中の人々が気付いている」と時代の転換点を捉え、木材を多く使用し、周囲の環境に溶け込む自身の建築作品や哲学に話を展開した。
昨年、フランスのパリで開催されたイベントで、スギノアカネトラカミキリによる食害を受けた熊野産の「アカネ材」の虫食い跡を生かした椅子を紹介したところ、予想外の好評を得たとの体験談も披露した。
国宝「那智瀧図」を有する東京都の根津美術館を設計した時のエピソードも紹介。フランスの初代文化大臣で作家のアンドレ・マルローが「那智瀧図」を目にし、実際に那智の滝を訪れた際の言葉を引用し「那智の滝は超高層ビルのような垂直ではなく、大地とつながった垂直。滝が落ちながら上昇し、天と地がつながる。人間が大地と関係なく無理をして建てた超高層タワーとは違う。それに気付いた先駆者がマルロー。熊野は自然の象徴として、人間を癒やす場所として日本人に大切にされてきた」と語った。
大河内智之准教授(奈良大学文学部文化財学科)や山本殖生さん(国際熊野学会代表委員・熊野三山協議会幹事)、瀧野秀二さん(熊野自然保護連絡協議会会長)らも登壇し、歴史文化・自然の両面から那智の滝や水源の原生林が果たす役割を強調。生熊みどりさん(熊野那智ガイドの会)による那智参詣曼荼羅(まんだら)絵解きもあった。
(2025年2月26日付紙面より)